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上智大学文学部史学科

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2014年 08月 02日

大澤ゼミ紹介2(教員ver.)


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大澤 正昭


 ゼミを紹介するにあたっては、まず卒業論文について触れておかねばなりません。言うまでもなく史学科の最終目標は高水準の卒業論文を作成することです。わがゼミをはじめとする東洋史専攻では、とくにこの点を重視しています。そうした目標を達成するため、二つの重点を掲げています。一つは学説の整理と批判をしっかりおこなうこと、もう一つは史料の読解をもとにした、自分なりの論理を構築することです。ゼミを紹介する前にこの二点を説明しておきましょう。


 まず学説の整理と批判です。これは先行研究を収集し、理解し、批判することです。一般に、私たちには〈活字信仰〉ともよべるような傾向があります。これは活字を使って印刷された本や論文などを何の躊躇もなく信頼しがちだという意味です。大学受験まで教科書を頼りに勉強してきた私たちは、無意識のうちにそこに書かれたことに全幅の信頼をおいてしまいます。しかし、どんな立派な装丁の本でも、どんなに有名な人が書いた論文でも、内容がすべて正しいとは限りません。とくに専門研究の論文は、著者がいくら心血を注いで書いたものであっても、史料の誤解や思いこみ、論理構成の不備などから逃れることはできません。完璧な研究成果などあり得ないのです。私たちは、研究がどこまで到達しているのかを読みとったうえで、こうした問題点をしっかり認識しておかなければなりません。そうして、新たな研究課題は何かを模索するのです。

次に史料の読解があります。研究課題を設定したあと、今度は自分の考え方を提示することになります。その材料が文献史料、つまり歴史的に残されてきた文書の読解です。中国史をはじめとする東アジア世界の多くは漢文史料をもっています。これを読解して自分なりの見解を組みたて、独自の結論を出すのです。ただこの作業にはそれなりの訓練が必要です。史料は過去の文章ですから、語彙や文法、用語の意味、あるいは著者の考え方などを理解するための訓練が必要です。とくに史料の読解には頭の柔軟さが必要で、思い込みを排除しなければなりません。そのためには訓練が必要ですし、またそこには新たな発見があります。

こうして作成される卒業論文は、世界に一つしかない論文で、大学生活を総括する貴重な財産です。しばしば〈大学はレジャーランド〉だなどと言われますが、わがゼミは決してそうではありません。楽しく、厳しく、少数精鋭主義!を貫こうとしています。では、ゼミではどのように学ぶのでしょうか。2 年生向けの史学教養演習と史料講読演習、および34 年生向けの東洋史演習について説明します。

⑴史学教養演習

このゼミの主な目的は、先行研究を理解し、批判し、新たな研究の課題を探る訓練です。題材としては宮崎市定著『中国史』を使っています。宮崎氏は中国史研究に大きな成果をあげ、計り知れない影響を与えた研究者です。その人が書いた中国史の概説ですから信頼できるものであることは確かです。けれどもこの研究でも、考えなければならない問題はたくさん含まれています。ゼミでは、分担して報告・討論をおこないます。スローガンは「ただ聞きはなし!」。みんなが討論に参加します。この討論の過程でさまざまな読み方が提示され、私たちの理解が深まります。つまり専門論文の初歩的な読み方を訓練する場がこのゼミなのです。

⑵史料講読演習

このゼミの目的は、歴史研究に必要な文献史料をどう読むかの訓練です。ここでは初心者を対象として、初歩的な史料から読み始め、研究に使える史料の解釈へと進みます。テキストは『通鑑記事本末』と宋・司馬光『資治通鑑』です。前者で準備運動をおこない、後者の読解に取り組むのです。『資治通鑑』は専門の研究論文でも使われている重要な史料です。これを読解できれば論文が書ける、とまでは言いませんが、一歩近づくことは確かです。半年の時間をかけて、漢文読解の基礎力を養成します。

⑶東洋史演習

このゼミの目標は、ズバリ卒業論文の作成です。そのためにいっそうの史料読解訓練と研究発表をおこないます。まず史料読解では、受講生が研究対象とする分野、つまり卒論に使う史料を選んで、みんなで読み進めます。各自のテーマはいろいろですので、さまざまな分野の史料に出会うことができますし、より高度な読解力も養われます。これを使って自分なりの歴史像を作り上げることになるのです。次に研究発表では各自のテーマにしたがって学説整理と批判をおこない、自分の論文構想の前提・基礎を作り上げます(3 年生はここでの報告をもとに、年度末に12,000 字のレポートを提出する義務があります)。こうした先行学説の整理と批判をもとに、自分なりに史料を操作して論文を書き上げるのです。

卒業論文の手助けとしては、卒論検討会も開きます。4 月にはゼミの一環として、7 月には一日を確保して、各自の報告をもとに卒論の構想を検討します。さらに9 月に上智軽井沢セミナーハウスで合宿し、最終的な検討会をおこないます。昼は勉強、夜は懇親会という充実した2 日間になります。こうした過程を経ることで、原稿用紙で百枚(40,000字)以上の論文ができあがるのです。

卒論の作成は、見方を変えれば考え方の訓練です。学説批判とは現状の分析と新たな課題の模索ですし、史料の検討とは自分なりの方針の提起です。こうした頭の訓練は研究においてだけでなく、人生のさまざまな場面で必要になります。たとえば、企業に就職した場合には、営業戦略の立案などすぐにでも求められる能力です。一般的にいえば、史学科での勉強は卒業後に直接役立つものではありません。しかし、頭を鍛えるという意味で卒論は大きな意義があると確信しています。



by history-sophia | 2014-08-02 01:01 | 教員・学部ゼミ紹介


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