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上智大学文学部史学科

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2011年 02月 18日

卒業論文の書き方―西洋近現代史篇― ⑤

Ⅲ.執筆する
 
1.書き始める

 構想を練るときは、「出来上がり図の逆順」といったが、実際書き始めるのは、自分の書きやすいところからでよい。文章を書くことは、油が乗るまでかなり時間がかかる。書けるところからどんどん書くこと。ただし「はじめに」はおわりに書く。「はじめに」を最初に書いてしまった人は必ず最後に手を入れて、論理の破綻がないように修正すること。読む立場から言わせてもらうと、「はじめに」と「註」を見れば、その論文の出来はほとんどわかってしまう。そのくらい「はじめに」を書くのは難しく、細心の注意で書くべきものなのだ。

 ぜひワープロを使うこと。文章の修正が段違いに楽である。ちなみに、ワープロ・パソコンは結構壊れやすい。必ず毎日バックアップをとっておくこと。また、締め切り最終日に提出するつもりでいると、機械の故障に対応できない。締め切り最終日以前に提出する予定にしておく。どうしても手書きにせざるを得ない人は、黒色のペンかボールペンで書く(鉛筆不可)。また、清書だけで最低4日ぐらいはかかることを忘れないように。

 「どんどん書け」といったが、考えなしに書いてはいけない。とくに本論の論証部分は十分考えた上で書かなくてはならない。太田秀通氏は考えるべきことを「実証性の吟味」と「合理性の吟味」と命名した。その吟味の基準は以下の通りという*。

 実証性の吟味
  a.研究材料の理解が正しいか。
  b.研究材料の解釈に無理はないか。
  c.研究材料の証明力の判定に誤りはないか。
  d.事実認定に実情を無視した点はないか。
  e.状況証拠からの想定に誤りはないか。

 合理性の吟味
  a.概念の使用が一貫しているか。
  b.原因の推理に不合理な点はないか。
  c.推定に推定を重ねた形跡はないか。
  d.論理の進め方に無理はないか。
  e.結論は既知の関連事象と適合的か。


2.本文を書くときの注意事項

 この辺の事柄はマニュアルがかなりたくさんある(Ⅴ参照)。手元に一つおいて参照しよう。註や参考文献の書き方は後述するが(Ⅲ―3、Ⅳ参照)、それ以外でとくに留意したいことを以下にあげる。

・文体は統一すること。論文なので「だ・である」体がふさわしい。ただし、引用文中はもとの文体を変えてはいけない。

・西洋史の固有名詞(人名・地名など)の表記は、原音主義にのっとってカタカナで表記する(ドイツ人の人名ならドイツ語の発音をカタカナ書きする)のが原則である。しかし原音からかけ離れた表記が定着している場合(例イギリス、ウィーン)、原音主義だと混乱する恐れがある。迷ったら外国人名・地名辞典にあたるとよい。

・歴史的固有名詞(昔の地名など)は、当時の表現を使う。必要なら今日の名前を併記しておけばよい。ただし蔑視の表現や歴史的虚偽を含む表現は、無批判に使ってはならない。その表現を使う場合は、どのようなつもりでこの表現を使うのかを明記するか、その表現に「 」をつけるとか、工夫すること(ただし引用文中は変更してはならない)。

・人名の場合、カタカナ表示のあと、原綴りと生没年(王の場合は在位年も)を加える。重要な固有名詞なども原綴りを加えたほうがよい。

・引用は、短い場合は「 」でくくって文中に組み込み、長い場合は引用部分を2字ぐらい下げたブロックにして書く。引用文は勝手に変更してはならず、中略する場合は明示する。読者の理解のために何かを補足するときは( )などにくくって記し、引用末尾に(括弧内井上)などと明記しておく。引用そのものにまちがいがあるときは、和文の場合(ママ)を、欧文の場合(sic)を付記する。

・孫引きは出来るだけ避け、原典にあたること。しかし外国史では孫引きしかできないことも多い。その場合は孫引きしたことがわかるような出典注記をする。つまり、直接自分が依拠した本を出典としてあげ、その後に「…に引用されている」と書くか、出典名のあとに( )書きして「原典は…」と付記するとよい。

・欧文の引用は訳すこと。原文も必要なら付記するなり、註記する。

・文章に関しては、「うまく」書こうとせずに「正確に」書くように努力すること。いくつかポイントをあげると以下のようになる**。
a.辞書を活用し、言葉の意味を正確に捉えること。
b.主語述語の関係を正確に書く。日本人は主語が曖昧な文をよく書く。最初は英作文しているようなつ もりで、くどいくらいに主語をいれた文章を作り、あとから無駄なものを削除していくと良いだろう。
c.できるだけ短い文を書く。
d.文と文のつながりに注意する。順接・逆接・例示・並列・対比・譲歩・限定・転換、いったいどの意味で前の文章につながっているのかを、いつも意識すること。同じ理由で、多様な意味を含む接続助詞「が」の使用は極力避ける。
e.感情的な表現(修飾語や比喩に多い)を避け、冷静で客観的な文章を書く。
f.自分で勝手に新しい言葉を発明しない。どうしても必要で新語を作った場合は定義をして使うこと。

・元気なとき、時間のあるうちに書いておく。風邪はひくもの、親は死ぬもの、ワープロは壊れるものだ。

・落ち込んだときのために、私のおまじないを披露しよう。自分の無能さに打ちひしがれるときには、「たとえ失敗しても、私は決して他人には真似できない非常に個性的な仕事をしているのだ」と言い聞かせる。考えがまとまらなくて苦しいときには「苦しければ苦しいほど、良いものが生まれる」という経験則を思い出す。仕事がまったく前進しない時には「よいものほど時間がかかる」という、昔ドイツ人が私を慰めてくれた言葉を思い出す。


3. 付録・参考文献目録・要旨

 註の書きかたは次章Ⅳで扱うことこととして、それ以外の付録・参考文献目録・要旨について述べておこう。これらは本文・註がほぼ完成してから着手することが多いと思うが、時間が足りなくなる傾向が強いので、付録などは早めに材料を準備しておき、本文作成中の暇なときに少しずつ作成しておくほうが、最後に慌てないですむ。

<付録>
・図・表・地図・年表・写真などを入れる。あまり数が多くない場合は、本文中に挿入してよいが、多数の場合は後ろの付録にまとめるほうがよい。

・図表等の各々に通し番号をつけ表題を付す。
(例) 表1 ドイツ第二帝政期の国会選挙結果

・図表が引用の場合には下に出典を明記する。自分で加工した場合はその旨を明記する。
(例) 出典:木谷勤『ドイツ第二帝制』青木書店、1978年、31ページの表3-5を筆者が加筆補正した。

・図表・年表は原則として自分で作成すること。文献からのコピーは好ましくない。

・付録の内容が多数に及ぶ場合は、付録の目次を作るのが望ましい(全体の目次に記載してもよい)。

・本文中で、「図6で明らかなように」とか「(詳しくは表3を参照)」とか、読者に付録を参照させるような記述をする。

・年表は本文の理解に必要なものを自分で作成する。既成の一般的な年表は不要である。

<参考文献目録>        
・論文作成に利用した文献を区分し、それぞれの項目で著者の姓(著者がいない場合は文献名)のABC順に並べる。和書のみの場合は50音順でもよい。

・直接引用したり記載内容を利用した文献以外にも、卒論のテーマを理解する上で利用した文献は目録に書いてよい。悉皆調査ではないのだから、読んでもいない文献を並べ立てるのはこけおどしである。

・文献の区別の仕方は、史料と第二次文献、洋書と和書、書籍と論文、というふうに細分化していったらよいであろう。和書の中を翻訳本とそうでないものと分けることもできる。

・和書の表記の仕方は註での書き方と同じ(Ⅳ―2参照)。

・洋書の場合、著者の姓のABC順で並べていくために、姓を先にかき、コンマして名を書く。複数著者の場合、第一著者のみ姓名順で書き、第二著者以下は通常の順序で書く。各項目間は註記ではコンマで区切るが、参考文献表ではピリオドで区切る方式がよく使われる(Ⅳ―5参照)。
(例)Rosencrance, Paul N. “Bipolarity, Multipolarity, and the Future.” Journal of Conflict Resolution. Vol.15, No.2. 1966. pp.306-320.
   Wright, Quincy and Karl Deutsch. The Study of International Relations. New York: Appleton. 1955. 

<要旨>
 日本語で400字に換算して3~5枚程度。文章にすること。


(註)
* 斉藤、前掲書、66-70ページに引用(原典は太田秀通『史学概論』学生社、1965年)。
** 同書、87-93ページ。日本語の文章術としては、以下の本が実践的で役に立つ。
清水幾太郎『論文の書き方』岩波書店(岩波新書)1959年。
本多勝一『日本語の作文技術』朝日新聞社(朝日文庫)1982年。
大野晋『日本語練習帳』岩波書店(岩波新書)1999年。

by history-sophia | 2011-02-18 17:35 | 卒論の書き方


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