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上智大学文学部史学科

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2011年 02月 12日

卒業論文の書き方―西洋近現代史篇― ④

Ⅱ.構想を練る

 「何」を「どう」書くか、それが「構想」を練ることである。4年生はじめの頃(第二次テーマ決定のころ)大まかに構想を考えおいて、精読の後半頃(晩夏から初秋)に最終的に煮詰めればよいだろう。卒論は分量も多いし、自分の仮説を実証していくものなので、「構想」を練らないと失敗する。構想なしで書かれたものは焦点がぼやけて何が言いたいのかよくわからない、あるいは言いたいことはわかるが、まったく実証されておらず説得力がない、ということになる。構想のしっかりした論文は論理の破綻がなく説得力がある。構想は実際の出来上がり図と逆に考えていくとうまくゆく*。説明してみよう。


1.「何」を言うのか―結論を考える

 論文を書く前に結論を考えておかなくてはいけない。「結論はそのうちに出てくるだろう」と思って、書き始めるとたいてい破綻する。4年生のはじめのころは、まだどういう問いを発するのかに神経を集中したほうがよいので、予想される結論、つまり「仮の結論」でよいだろう。「仮の結論」は上記Ⅰ-4(文献収集・読書・第二次テーマの決定)の作業をきちんとしていればかなり煮詰めることができる。第二次テーマの決定に際して、ある歴史事象の研究史がわかるようなしっかりした論文や本を読めと言った。そのときに、このテーマに関する学界での見解や解釈を整理しておく。そしてなぜ見解・解釈が異なるのか、その根拠となる考え方や史料を吟味し、自分はどう思うかを熟考するのだ。すると自分なりの「仮の結論」が出てくる。

 文献の精読がほぼ終了した4年生の秋口にははっきりした「結論」に煮詰め、必ず文章化しておく。卒論レベルでは従来の定説をひっくり返すような解釈はまず出せない。歴史事象の正確な理解と批判的再構成がせいぜいで、既存の説に対して補強ないし限定付けができれば、たいしたものだ。


2.「どう」書くか―構成を考える

<卒論の体裁>
 卒論の構成要素は以下のとおりである。
 ・表紙(論文題目、学籍番号・氏名、提出先、提出年月日などを記載する)
 ・目次(各章節のタイトルと該当ページを入れる。目次は論文のページ数に入らない)
 ・本文(はじめに~各章~おわりに)
 ・註(本文中の各章末につけても、脚註の形にしてもよい)
 ・付録(本文に入れない図・表・地図・年表・写真など)
 ・参考文献目録(卒論作成に利用した文献を書く)
 ・要旨(必要としないゼミもあるが、卒論口述試験で提出するので作っておくとよい)

 用紙は原稿用紙の場合B5判、ワープロ原稿の場合A4判の白上質紙を用いる。西洋史は横書きがよい。ワープロ原稿の場合、上下左右各2~3cmの余白を取り、1枚が400字の整数倍(40字×30or40行が適当)になるよう印字する。感熱紙印刷のものは保存できないのでふさわしくない。手書き・ワープロ原稿ともに、上または下の欄外にページ(ノンブル)を打つ。

 上記の1セットを製本した上で提出する。製本は、図書館5階コピーセンターに行けば、色厚紙の外表紙をつけてのりでとじる製本をしてくれる(400円程度)。時間がなければ、穴をあけ、市販の黒表紙と紐を使って自分で製本すればよい。その外表紙に大学指定の卒論提出票を貼りつけて提出する。


<分量の目安>
 まず最初に分量の目安を考える。本文・註・付録・参考文献目録で、歴史雑誌の学術論文の標準は400字詰め原稿用紙で80枚前後である(以下枚数はすべて400字原稿用紙に換算しての枚数)。歴史論文は出来事を詳述したり、史料を引用したりするので、枚数は多めになる。私は史学科の卒論としては100枚程度が標準だろうと言っている。50枚だと、よほど内容がよければ別だが、少し手薄な感じが否めない。80枚以上で十分勉強したことが感じられる。

 100枚程度の論文だと、本論は3~4章程度になるだろう。「はじめに」と「おわりに」が各10枚程度とすると、本論の各章は20~30枚見当である。各章はまた数個の節(各5~10枚程度)に細分される。


<章立て>
 次にどの章に何を書くかを考える。これを章立てという。学術論文は基本的に3部構成を取り、はじめに・本論・おわりに(または序論・本論・結論)となる。それぞれに何を書くかを示すと以下のようになる。

 ・はじめに (どのような問題をどのように扱うかを書くところである。つまり、問題設定、研究史、依拠する史料と分析方法、論文全体の構成などを記す)
 ・第1章  (本論後半の実証部分を理解するための予備知識を与える)
 ・第2章以下(第1章を受けて「おわりに」の結論に必要な論証を行う)
 ・おわりに (本論の論証に基づき、「はじめに」で出した問いの答えを書く。今後の展望を加えてもよい)

 なぜ結論を先に考えておけと言ったのか、これでわかるだろう。結論に向けて次第に焦点を絞っていくような構成にするからだ。読者は「はじめに」から「おわりに」の結論へと辿り着くが、執筆者は章立てを考える段階では、全くその逆に考えるのである。つまり「おわりに」の結論→本論後半の論証→第1章の予備知識→「はじめに」の問題設定、と考えていく。こうしないと、無駄が多く要領をえない論文になる。

 
<各章の内容確定>
 本文の部分に書くべきことが決まったら、精読時のメモを取り出し、何章何節にどのメモの内容を入れるかを配分する。次に各章各節ごとにこのメモの束を検討して、その章節の叙述の順序を決める。調べたことをすべて書きたくなるが、本論の道筋に関係あるものだけにする。卒論レベルだと、調べたことの半分ぐらいしか書けないものだ。あと半分は捨てる覚悟をする。捨ててもきちんと文献を読んで理解していれば、そのことは行間からにじみ出てくる。ここまでの作業がきっちりできていれば、執筆はかなり楽になる。

 
(註)* 望田他、前掲書、21-25ページ。私自身の経験でも、初期の失敗作は除き、論文作成ではほぼこのように作業している。

by history-sophia | 2011-02-12 19:37 | 卒論の書き方


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