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上智大学文学部史学科

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2011年 01月 26日

卒業論文の書き方―西洋近現代史篇― ②

Ⅰ. テーマを決定し、文献を読む

1. 論文とは

 歴史学の論文とは、ある歴史的事象に関して問いを発し、論理と史料による裏づけによって、その問いへの答えを出すものである。とはいうものの、論文のように見えて論文でないものも多い。何が学術論文でないかを定義しているアメリカ人の説を斉藤孝氏は以下のように紹介している*。自分で書いてみればわかるが、以下の条件をすべてクリアするのはかなり難しい。なお( )内は井上の補足である。

  a. 1冊の本や1篇の論文を要約したものは論文ではない(これは読書ノートだ)。
  b. 他人の説の無批判な受け売りは論文ではない(これはオウムだ)。
  c. 引用を並べたものは論文ではない(これは資料集だ)。
  d. 証拠だてられない私見は論文ではない(これは感想文だ)。
  e. 他人の業績を無断で使ったものは論文ではない(これは剽窃だ)。

 また、最近の傾向として、卒論を通史とか新書と同じように考えている学生が増えている。これは、学生がいかに専門書や学術論文を読んでいないかを反映するものであろう。通史や新書は読者の一般的知識を高めたり、問題意識を喚起するためのものであり、基本的に「広く(浅く)」書いてある。論文はある問いを立て、その問いを追求して、自分なりの解答を出すものだから、「(狭くても)深く」書くものだ。両者は性格が異なる。卒論で通史を書く必要はないし、新書もどきを書こうと思ったらまず失敗する。

 テーマの選択は論文の価値の半分を占める。テーマは一度決めたら不動のままというわけではない。むしろどんどん狭くなっていく。これを「テーマの絞り込み」という。卒論の場合、いつごろ、どのくらい狭くテーマを絞っていくかが問題だ。卒業研究のテーマが教員から与えられるという理科系と異なり、文科系の卒論に関しては、教員の助言を受けつつも、基本的に自分でテーマを考えなくてはならない。今までなかった大きな課題である。史学科の学生に私が推薦している方法は、望田幸男氏の提案するやり方である**。以下、段階を追って説明しよう。


2. 「時代」「地域」「分野」を決めるー2年生おわりまで

 「時代」と「地域」は2年生のプレゼミに入る段階で大まかには決まっているので、2年生の時にすべきことは、まず「時代」と「地域」をもっと絞り込むことだ(「近代」「ヨーロッパ」ではなく、「19世紀後半」「イギリス」とか、「20世紀前半」「フランス」程度に絞る)。それと同時に「分野」を決める。「分野」というのは「どういう角度から歴史を見るか」ということだ。「経済史」にするか、「外交史」にするか、「政治過程」を書くのか、「美術史」のような「文化史」にするか、「余暇の歴史」・「食の歴史」・「住まいの歴史」のような「社会史」にするか、「家族史」・「移民史」・「メディア論」等々、可能性は無限にある。「分野」の選択は「何に興味をもつか」なので、その人の個性が現れる。自分の興味をかきたてるものと、実際に卒論が書けるかどうかは別物だが、その判定は次のプロセスになる。自分の興味のつぼを認識するためには、ともかく貪欲に「歴史書と見合い」(望田幸男)をすることである。「たまたま受けた講義がおもしろかったから」という受身的な姿勢では行き詰まる。自分で図書館や書店にいって本を手に取り、どんな本か見当をつけ、ざっと目を通し、自分の興味をどんどん広げ深めてゆこう。この時期は「濫読」の時期である***。


(註)
* 斉藤孝『学術論文の技法』日本エディタースクール出版部、1977年、7-9ページ。
** 望田幸男・芝井敬司・末川清『新しい史学概論[新装版]』昭和堂、1998年、14-21ページ。
*** 読書論として参考になるのは、立花隆『ぼくはこんな本を読んできた』文藝春秋社(文春文庫)1999年。

by history-sophia | 2011-01-26 11:35 | 卒論の書き方


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