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上智大学文学部史学科

sophia1942.exblog.jp
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2011年 02月 26日

卒業論文の書き方―西洋近現代史篇― ⑦

Ⅳ. 註の書き方

4.洋書の註記―発行地主義か統一性重視か
 欧文文献の表示の仕方は、国によって異なる。また一国の中でもスタイルの幅がある。日本の西洋史学では伝統的に、英語の本であれば英米方式で、ドイツ語の本であればドイツ方式で、フランス語の本であればフランス方式というように、発行地主義で註記してきた。発行地主義は、引用文献を読者が利用するときに便利であるし、留学するときや外国語で論文を書くとき、すぐにその国の方式に転換できる点で、メリットがあった。しかし、学術用語として重視されてきた英独仏3カ国語ならまだしも、5つの外国語の文献を表示する場合、和書も入れれば6つの方式を使いこなさなくてはならなくなる。一つの論文の中にこれほどの数の方式が共存するのは、註記の大原則の「論文内の統一性」に反する(和洋2方式の並存はもちろん仕方ないであろう)。欧米人は自国語以外の文献を扱うときには、発行地主義をとらず、自国方式で統一している。また、現在(特に現代史では)研究の国際化が進行し、もっとも流通域の広い英米方式が非英語国の方式の中にかなり浸透してきている。私自身15年前ドイツに留学してゼミで各種のペーパーを出したが、英米方式でもドイツ方式でも、論文内で統一してあれば何も注意されなかった。

 ドイツ史の論文で和書とドイツ語文献のみを使っていれば、洋書の註記はドイツ方式が妥当であろうが、チェコスロヴァキア史の論文で、ドイツ語・ハンガリー語・フランス語・英語の文献を使った場合、私ならば英米方式で統一するだろうし、もし圧倒的にドイツ語の文献に依拠したのだったらドイツ方式で統一するだろう。こういった事情を考え、まず学生がもっとも利用する機会の多い英米方式の標準形を示し、その後で、私の専門であるドイツ方式を示すことにする。詳しく言えば切りがないので、読むときに必要なことは各種マニュアルに任せるとして、卒論の註を書くときに必要な事項を以下に述べる。


5.英米方式の註記
 英米方式にも各種のスタイルがある。出典註記の原則と記載順序は和書の場合と同じである(というより和書の表記の仕方が洋書の表記方法を和訳したものであろう)。和書と異なる点を挙げてみよう。

・ 各項目は、中表紙(扉という)とその裏ページを良く見て書くこと。外の表紙と扉で本のタイトルが異なるときは、扉に書かれた方が正式タイトルである。

・ 欧文の句読点を使うので、和書でしか用いない「 」や『 』は使えない。

・ 各項目の区切りはコンマを使い、最後はピリオドで閉じる。項目間の区切りのあとは一文字分スペースをあける。ピリオドは略語にも使用する。

・ 英語表現も多いが、ラテン語の略語もよく使われる。ラテン語は普通イタリック体にするか、下線を付す。

・ 著書名・執筆者名・編者名は、名→姓の順になる。 (例 William Nelson)

・ 複数著者の場合、andでつなぐか、コンマでつなぐ。
  (例) Walter Lacqueur and Georg Mosse
      Walter Lacqueur, Georg Mosse

・ 複数著者で第二著者以下の略記にはet al. を使う。(et alli = and others)
  (例)  Moshe Lewin et al.

・ 編者の記載は、編者名あとに ed. (= editor)。複数編者の場合は eds. (= editors)。
  (例) Peter Hayes ed.
    Peter Hayes and Richard Evans eds.

・ 書名・雑誌名・新聞紙名はイタリック体にする。それができないときは下線を引く。 
  (例) The Road to Sarajevo
      The Road to Sarajevo

・ 論文名・新聞記事名は引用符(“ ”)でくくる。

・ 論文の場合、論文編者名の前や雑誌名前にin: を加える事がある。
  (例) Karl Bracher, “The Role of Hitler,” in: Walter Lacqueur ed., Fascism,
Boston, 1998.

・ メインタイトルとサブタイトルの間は、コロンないしピリオドでつなぐ。
  (例) Evangelist of Race: The Germanic Vision of H. S. Chamberlain
      Evangelist of Race. The Germanic Vision of H. S. Chamberlain

・ 書名・論文名では、冠詞・接続詞・前置詞を除いた語と最初の語は大文字で始めるのが普通である。

・ 改訂版、第○版は書名のあとに記す。(例)rev. ed. 3rd. ed. (ed.=edition) 

・ 「第3巻第2号」にあたるのは Vol.3, No.2 (Vol.=volume, No.=number)。
  ローマ数字や算用数字のみで表す方法もよく用いられる。 (例 Ⅲ-2)

・ 発行元の表示は、基本的に発行地。ただし最近は発行地と出版社を両方書くものが増えている。その場合は、両者のあいだをコロンでつなぐ。発行地が複数にわたる場合はコンマやand でつなぐ。
  (例) Berkeley and Los Angeles: University of California Press

・ 発行地不明は n.p.  (= no place of publication)
  発行年不明はn.d.  (= no date of publication)   

・ 採用ページの表し方は、単数ページの場合p. 複数ページの場合pp. を使う。
  (例) p.58 (58ページのみをさす場合)
      pp.58-71(58-71ページをさす場合)
    pp.57f. (57ページと58ページをさす場合、f.=following page)
      pp.57ff. (57ページ以下の複数ページをさす場合、ff.=following pages)

・ 既出文献の註記の場合、「同」と「前掲」にあたる言葉を使えばよい。
   ibid. (ibidem = in the same place)「同書」「同論文」にあたる。
   op. cit. (opere citato = in the work cited)「前掲書」「前掲論文」にあたる。
   op. cit. の場合は、著者名(簡略形)が必要である。


6.ドイツ方式の註記
 ドイツ式の場合は、英米方式といくつかの点で異なる。ラテン語はそのまま使えるが、英語の略語はドイツ語に変わる。

・ and は und に変わる。人名や地名の併記にはスラッシュ(/)を使っても良い。
・ 編者の場合、ed. eds. にあたるドイツ語は Hg. またはHrsg. (=Herausgeber単複同形) で、( )に入れて使うのが一般的である。
  (例)Martin Broszat und Wolfgang Benz (Hrsg.)
     Martin Broszat/Wolfgang Benz (Hg.)

・ 複数著者の場合、et al. のドイツ語 u. a.(= und andere)もよく使われる。

・ 書名・雑誌名・新聞紙名のイタリック体ないし下線、論文名の引用符は、ドイツ方式ではしない方が一般的である。
  (例)Norbert Frei u. a., Medizin im Dritten Reich, Bonn 1988.
     Michael Voges, Klassenkampf in der Betriebsgemeinschaft, in: Hans Mommsen (Hg.), Sozialgeschichte des Dritten Reiches, Stuttgart 1980.

・ ドイツ語の書名・論文名で大文字になるのは、最初の語と名詞である。
 
・ 巻号の表しかたは、Jg.(=Jahrgang), Bd.(=Band), Heft などを使う。
  (例)Geschichte und Gesellschaft, Bd.7, Heft 3
  Archiv für Sozialgeschichte, Jg.33

・ 版を示すのは、Aufl. (=Auflage)。 序数は算用数字にピリオドを打つ。
  (例) 3. Aufl.

・ 発行地と発行年の間にコンマは打たない。ドイツでは出版社を記すことは少ない。 
 (例) Berlin 1978

・ 発行地不明、発行年不明のドイツ語は、o.O. (=ohne Ort) o.J. (=ohne Jahr)

・ ページの表記にはS. (=Seite)をつかう。複数ページでもS.(=Seiten)である。f.と ff.の使い方は英語と同じ。 
    (例)S. 57 S. 34-65 S. 57f. S.57ff.

・ ibid. のドイツ語はebendaまたはebd., op.cit. のドイツ語はa. a. O. (= am angegebenen Ort)

by history-sophia | 2011-02-26 17:48 | 卒論の書き方


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